姿勢の工夫
30度リクライニング位
食べ物の取り込み、送り込みに障害のある人では30度にすることで重力の利用ができ、気管が上で食道が後ろになることから誤嚥が起こりにくくなる。
頸部前屈
- 頚部が伸展していると咽頭と気道が直線になり、気道が開き誤嚥しやすくなる。頸部前屈すると咽頭と気道に角度がついて誤嚥しにくくなる。
- 前頸筋群がリラックスし、嚥下筋の働きがスムーズになり嚥下に有利に働く。
- 枕を二つし、頚部が伸展しないようにします。あごから胸まで3-4横指が入るくらいが目安。
水分の摂取
液体はさらっとし、まとまりが悪く、咽頭に流れるスピードが速いため、誤嚥しやすい。粘度(とろみ)によって、まとまりをよくし、咽頭に流れ込む速度をゆっくりとすることで、嚥下の準備ができ、タイミングが取りやすくなる。
増粘剤のリスク | 増粘剤は、①商品によってとろみのつき方が違う、②溶かす温度や時間、溶解方法によって硬さが変化するため、適切で均一なとろみが重要となります。 |
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適切な濃度 | 一般的には、スプーンですくって落としたときに、軽く糸を引く程度が適切とされています。 |
一口量
- 水のみテストやVF検査などの状況である程度予測するが、食物形態で異なります。
- 少量の方が誤嚥しにくいが、感覚低下のある方は少なすぎる量では嚥下反射が誘発されないことがあります。
- スプーンの選択は、小さく、薄く、平たく、柄の長いスプーンが最適。持ちやすく、滑りにくいもの。大きなスプーンでは取り込みしにくく、誤嚥しやすいので、はじめは小さなスプーンで開始し、徐々に能力に合わせて大きなものに変えていきます。
摂取方法
複数回嚥下
一口につき2 回以上嚥下することで咽頭残留を除去し、嚥下後の誤嚥を防止する方法。
一回嚥下した後、咽頭残留感の有無にかかわらず、2 度以上の複数回の空嚥下を行う。
交互嚥下
異なる形態の食塊が交互に入ることが、咽頭残留の除去に物理的に有利に働く。特に、べたつきやぱさつきのある食物の後にゼラチンゼリーを与えると、口腔残留や咽頭残留がクリアされる。このことから、食事の最後はゼラチンゼリーで終了するとよいとされている。咽頭残留に限らず、口腔や食道の残留にも効果がある。
固形物と流動物を交互に嚥下させる。汁物でむせる症例では、汁物をごく少量とするのがコツ。べたつくものとゼラチンゼリーや残留の少ないゼリーとの交互嚥下がよく行われる。水分誤嚥のない場合には水が最も残留が少なく、かつ残留した場合でも汚染につながらないため、食事の最後には水(ないしお茶)を嚥下するとよい。
頸部回旋(横向き嚥下)
頸部を回旋すると咽頭腔の形態が変化し、食塊が咽頭の非回旋側へ誘導される。また、非回旋側の食道入口部静止圧が低下することも知られている。これを応用して、咽頭残留の軽減や誤嚥の防止を期待する手技である。
咽頭機能の悪い側(患側)に頸部を回旋後、嚥下する。回旋の程度には定説がない。十分かつ努力を要しない程度の回旋角度が適切と考えられる。回旋のタイミングは捕食前からが確実であるが、口腔保持ができて咽頭流入に伴う誤嚥のリスクが少なければ、嚥下直前に回旋しても効果がある(嚥下前頸部回旋)。また、嚥下後に残留がみられたとき、非残留側に回旋して空嚥下を行って残留の除去を試みる方法もよく行われる(嚥下後回旋空嚥下)。仰臥位では、回旋側が下側になり、食塊が重力で回旋側に誘導されるので注意する。このときは、健側を下にした側臥位を併用して対処する。
一側嚥下
頭部と体幹を健側に傾斜させると同時に、頭頸部を患側に回旋させる。
頸部突出法
下顎骨(舌骨)喉頭連結術(いわゆる棚橋法)術後患者において、下顎を前突させることにより連結された喉頭を前方に引き出し、食塊の送り込みに合わせて食道入口部を意図的に開く方法。
頸部を前屈した位置から、食塊の咽頭への送り込みのタイミングに合わせて顎を前方に突き出す。下顎の突出を促す方法として頬杖をつく方法もある。
- 注意点など
- 本法は基本的に棚橋法の術後に行う方法であるが、輪状咽頭筋切断術だけの場合も頸部突出はかなり有効である。手術を受けていない症例では無効であるが、時にこの方法で食道入口部が開く場合がある。実施する場合はVF などで評価して行うことを推奨する。
息こらえ嚥下
嚥下中の誤嚥を防ぐと同時に、気管に入り込んだ飲食物を喀出する効果がある。
飲食物を口に入れたら、鼻から大きく息を吸って、しっかり息をこらえて、飲食物を飲み込み、咳払いをする、あるいは口から勢いよく息を吐き出す。意識的に息こらえをすることにより、嚥下動作直前から嚥下動作中に声門を閉鎖する。
K-point 刺激
偽性(仮性)球麻痺患者に対して嚥下反射を誘発したり、開口を促したりすることができる。
嚥下を誘発する場合は、K-pointを湿らせた綿棒や凍らせた綿棒(アイスマッサージ棒)、スプーンや舌圧子で軽く刺激(さわる程度)する。咬反射のために開口してくれない場合、Kpoint刺激をしている間は開口が促されるために、口腔ケアができる。
食器の工夫
先ず、食器を置くマットは、食器が滑らないものを使用、または滑り止めのついた食器を使用。食器は、傾斜がついて片側が深く、皿の口に返しがついているものや、食事量がわかりやすい目盛りのあるものなどがあります。食器はできるだけ、白飯が認知しやすい濃い色の食器を用いることも、先行期の障害患者には有用です。
介助者の注意点
- 患者と同じ目の高さで介助する(患者が見上げることで、頸部が後屈しないように)。
- 患者の覚醒を十分確認する。
- 患者に食事への準備・自覚するタイミングを十分にみはからう。
- 食物が口にある間と嚥下直後は話しかけない。
- 摂食のペースを守るために介助者もゆったりとした態度で接する。
- 材料名・料理名などを知らせ食欲促進に努める。
- 介助する人が統一した方法で行えるようにする(ベッドサイドに摂取方法を掲示するなど)。
- 激しい咳やむせ、呼吸の変化があったときには一時食事を中止する。
- 疲労の様子を見ながら摂食をすすめる(30分くらいが目安)。
- 食後すぐは体を起こしておく(逆流を防ぐため)。
認知症患者の食事介助(特に誤嚥予防)
- 覚醒は良好か?
- 薬剤の副作用のチェック
- 環境、特に光環境の調節による覚醒の促し
- コミュニケーションなどによる覚醒の促し
- 家族の訪問や介助などで覚醒の促し
- 睡眠・生活リズムの改善
- 体調不良や発熱はないか?疲れていないか?
- 食事であることが理解できているか?または、おなかがすいているか?
- 五感の活用
視覚 - 盛り付け
- 食器やテーブルクロスの色
- 「食べる」の文字
- 食べるイラスト
- スタッフが一緒に食べる
- スタッフのエプロン
- マスコット
- 暖色系の使用
嗅覚 食欲をそそる香り 聴覚 揚げ物を上げる音、グラスの音など、心地よい音楽 味覚 濃い味 触覚 食材にふれる - 好物の活用
- 記憶の継続性(なじみの食器やテーブル、いすなど)
- 五感の活用
- 気になるものが周りにないか?食事に集中できているか?
- 注意を引く盛り付け、色彩
- 食欲をそそる香り
- 好きな仲間、スタッフ
- 食事前のルーティン
- 口の中はきれいか?義歯は大丈夫か?味覚障害、嗅覚障害はないか?
- 食事を嫌がっていないか?
- かならず、一品は好物をいれる
- 思い出のある食事をとりいれる
- 食べる姿勢はできているか?
- 足底はしっかり床につける
- テーブルは肘の高さ
- 頸部はやや前屈
- 膝関節は90度屈曲
- イスとテーブルの距離が適度
- どれからたべていいかわからない
- コース料理方式
- ワンプレート方式
- 弁当箱の使用
- 食具(おはし、スプーンなど)の使い方がわからない
- 食具をいつも同じ場所におく
- 食具を手渡す
- おにぎり、サンドイッチなど食具を使用しなくてもすむ食形態にする
- 食べるペースが違う人がいないか?
- 他人の食事を食べる、邪魔をする
- 詰め込み、過食はないか?